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東京地方裁判所 昭和36年(ワ)4736号 判決

判  決

東京都杉並区和田本町八六八番地

原告

野島弘光

東京都中央区銀座西三丁目一番地

被告

平和生命保険株式会社

右代表者代表取締役

武元忠義

右訴訟代理人弁護士

大原信一

右同

小幡良三

右当事者間の昭和三六年(ワ)第四、七三六号株主総会決議取消請求事件について、当裁判所は次のとおり判決する。

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

原告は、「被告会社の昭和三六年五月三一日の定時株主総会においてなされた、(一)萩原吉太郎を取締役に選任する。(二)森田秀数、吉田太郎及び金指淳三を監査役に選任する。との決議を取消す。訴訟費用は被告の負担とする。」との判決を求め、その請求原因として、

一、原告は被告会社の二〇株の株主である。

二、被告会社は昭和三六年五月三一日定時株主総会を開催し、同総会において、萩原吉太郎を取締役に、森田秀数、吉田太郎及び金指淳三を監査役に選任する旨の決議をした。

三、右総会の議長には、被告会社の代表取締役武元忠義が就任し、同議長のもとで議事が進められたが、(一)取締役選任の件が上程されたとき、原告は右議案につき質問しようと起立し手を挙げて、「議長、議長」と大声で呼びかけたところ、議長は視線を手にした書類に向けたまま、さも迷惑そうに小声で「後で」と答えたまま議案の説明朗読を続けようとしたので、原告は更に、「議長、貴方はつんぼか。」と大声で叫んだが、議長はなおも朗読を続けたので、出席していた他の一株主もたまりかね、「話を聞け。話を聞かんか。」と怒鳴つた。それにも拘らず議長は右原告他一名の発言を全く無視したもので、議長の右措置は株主総会における原告の発言を封じその機会を与えなかつたものである。しかも、(二)取締役及び監査役を選任するについては投票によつてなされるのが原則であり、出席株主の動議により投票することを省略して議長の指名に一任して選任する場合においては、出席株主全員の承諾を得ることを要する。しかるに議長は原告他一名の株主が議長の指名推薦による役員の選任方法には反対していたにも拘らず、出席株主全員の賛成を確認せずして前記取締役及び監査役を選任したもので、右(一)(二)の事実はいずれも決議の方法が法令に違反したものであるから、右総会においてなされた取締役及び監査役の選任決議の取消を求めるため、本訴請求に及ぶと述べ、

被告の抗弁はこれを争うと述べ、

立証(省略)

被告訴訟代理人は主文と同旨の判決を求め答弁として、原告主張の一、二項の事実及び三項の事実中議長に被告会社代表取締役が就任し議事が進められたこと、取締役選任の件が上程されたとき、原告が大声を発しながら立ち上つたこと、続いて一株主が大声を発したこと、原告主張の取締役及び監査役が議長の指名により選任されたことは認めるが、その余の事実は否認する。仮りに本件総会における議長の議事整理処置により原告が質問の機会を逸したとしても、次の事情により議長の議事進行は適法かつ妥当であつて、決議の成立過程に何らの瑕疵はない。即ち議長は取締役選任の件を上程したところ、出席株主より監査役選任の件も一括上程せよとの動議があり、満場一致でこれを採択し、議長は右選任方法を投票にするか否かを諮つたところ、その際原告が大声を発しながら立ち上つたが、続いて議事進行に関し議案先議及び選任は指名推薦の方法によるべしとの動議があり、原告他一名を除く全株主の賛成でこれを採択、これに基ずき議長は指名推薦すべき旨を告知、右議事進行を不満として原告他一名は捨て台詞を残して議場より退出、議長の指名推薦により取締役及び監査役が選任されたもので、議長は大多数の株主の賛同を得た議事進行に関する動議に基ずき議事を進行したものに過ぎず、原告の発言を故意に封じたことはない。

のみならず、原告は昭和二二年二月一日被告会社に入社し財務課に勤務していたが、同二九年八月一日支社勤定課への転課を不満として長期欠勤し、同三〇年四月一日休職、同三一年五月一五日依願退職したものであるが、同三二年六月一日被告会社の株式一〇〇株を取得し、爾後の被告会社の株主総会に出席してその都度議事妨害を図り、被告会社幹部に人身攻撃を加えるなどしていた。殊に同三五年四月一二日開催せられた被告会社の臨時株主総会において、取締役選任の件が上程せられるや、長広舌をふるつて悪質な議事妨害を図つた。しかもその直後である同月一八日かねて取得保有せる被告会社の百株券を一〇株一〇株に分割すべき旨の株券分割請求をなし、同三六年三月右株券八枚をいわゆる総会屋八名に一〇株宛譲渡して取得せしめ、時到るを待機し、本件株主総会当日も訴外岩崎太郎なる総会屋を同伴し、相ともに大声を発して議事妨害を図ろうとしたものである。しかして本件総会においてその企図が失敗するや「ただではおかぬ。」と捨て台詞を残して退場し、旬日を出でずして本訴提起に及んだもので、本訴請求は権利の濫用である。

仮に本件決議の方法に違法の点がありとするも、被告会社の発行済株式の総数は、二〇〇万株であり、本件株主総会における委任状提出者をも含む出席株主の保有株式数は一九一万五、〇一〇株であつて、前記議事進行経過その他の事情から、右違法が本件取締役及び監査役選任の決議の結果に影響を及ぼすものとは考えられないので、原告の本訴請求は棄却されるべきであると述べ、

立証(省略)

理由

原告が被告会社の二〇株の株主であること、被告会社は昭和三六年五月三一日定時株式総会を開催し、同総会において萩原吉太郎を取締役に、森田秀数、吉田太郎及び金指淳三を監査役に選任したこと、同総会の議長に被告会社の代表取締役武元忠義が就任し、同議長のもとに議事が進められたこと、取締役選任の件が上程されたとき、原告が大声を発して立ち上り、続いて他の一名の株主も大声を発したこと並びに右取締役及び監査役は議長の指名推薦の方法により選任されたことは当事者間に争いがない。

原告は、議長は本件株主総会において原告の発言を封じその機会を与えなかつたと主張するので案ずるに、(証拠)を綜合すれば、議長は本件株主総会に取締役選任の件を上程したところ、出席株主より次の議案である監査役選任の件をも一括上程せよとの動議があり、多数株主の賛成を得てこれを採択したこと、その時原告から「議長議長」との発言があり、又株主岩崎太郎が議長に対し大声で、「質問者の発言を聞け。」等叫んだが、一方右両名を除く多数株主からは、「議事進行」「議長一任」等の発言があり一時議場は騒然となつたが、議長の指名推薦による役員選任の方法によるべしとの動議に基ずき原告他前記岩崎太郎を除く多数株主の賛成を得てこれを採択し、議長の役員候補者指名の告知により、前記萩原吉太郎他三名が満場一致により取締役及び監査役に選任されたこと、原告及び右岩崎太郎は右議事進行を不満として右議案が可決されるに先だち捨て台詞を残して本件総会議場より退出したことが認められるが、(中略)他に原告の発言を故らに封じその機会を与えなかつたとの事実を認めるにたる証拠はないので、右主張は採用することができない。

次に、原告は、投票による役員選任の方法を省略し、その候補者の指名を議長に一任して役員の選任をする場合には出席株主全員の承諾を得ることを要するにも拘らず、議長はこれを確認しないで役員を選任したから、本件総会の決議は違法であると主張するが、役員の選任方法につき定款をもつて右主張のような別段の定めをした場合は格別出席株主全員の承諾がなければ候補者の氏名を議長に一任しその指名者を役員に選任することができないとする法律上の根拠はなく、しかも前段認定事実によれば、役員候補者の指名を議長に一任する旨の動議があり多数株主の賛成を得てこれを採択し、議長の指名に基ずき満場一致をもつて役員の選任がなされたことが認められるので、原告の右主張もまた採用することができない。

しからば本件株主総会における取締役等選任決議の方法が法令に違反したものということはできないから、原告の本訴請求は失当としてこれを棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八九条を適用して主文のとおり判決する。

東京地方裁判所民事第八部

裁判長裁判官 長谷部茂吉

裁判官 玉 置 久 弥

裁判官 白 川 芳 澄

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